エンジョイ・シンプル・イングリッシュ 和訳

NHKのラジオ番組 enjoy simple english「エンジョイシンプルイングリッシュ」を和訳しています。

「I Am a Cat Episode One」(2020 年 9 月 放送分)

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 私は猫だ。そして、私は名前を未だ持たない。私は私が生まれた場所についての記憶も持たない。しかし、暗く湿気のある場所で泣いていたことは覚えている。また、そこは私が人間に生まれて初めて出会った場所でもある。彼はその人間のうち、最も危険な種類のものだったのだ。私はそのことを後まで知らなかった。彼は書生だった。私はまた、書生は時に猫を捕まえて食うことも知った。しかしその時には、私はこれらのことについて全く知らなかった。だから、彼をさほど恐ろしいものだとは思わなかった。私の思ったことは彼の顔は薬缶のようだな、と言うことが全てだ。顔と言うものは幾らかの毛を持つものであろう。

 私は書生の手の中で、暫く気持ちよく休んだ。しかし直ちに、大変早い速度でぐるぐると円を書いてわたしは回転し始めた。その書生が動いていたのか或いは、わたしが動いていたのか私は判らない。どちらにせよ、私の目は回り始めた。そして、気分が悪くなった。それから突然に大きな音が聞こえ、私の両目から火が飛び出した。そうして、全てが闇となった。

 

 後になり、私は周りを見廻した。書生は何処かへ行ってしまっていた。私の兄弟たちもまた、居ない。私の大切な母親さえもが、居ない。私は沢山の竹が繁る場所へ放り投げられたのだということを理解した。そして、痛い。私は空腹であり満身創痍だった。それで、食物を見つけることに決めた。壊れた垣根の穴を通り抜け、そうして誰かの家へと導かれた。運とは不思議なものだ。もしも私がその穴を見つけなかったなら、私は死んでいたかもしれない。

 そして、私は誰かの家に居た。しかし私はこの次に何をしたものか、分からなかった。とても寒い。そして、雨さえ降り始めた。私にはもう残された時間は無かった。だから私は暖かく見える、明るい場所へと向い動いた。それが、わたしが異なる人間を見たその時である。

 始めに、下女のおさんを私は見た。彼女は書生よりもさらに危険な物だった。彼女は私を見るなり、私の首の辺りを掴まえて表に放り投げた。ただし私は凍えて空腹であった。おさんが見ていないうちに私は台所の中へ戻った。しかし彼女は私を見つけ、再び放り投げたのだった。このことが暫くの間続いた。私が中に入り、そうして彼女が私を外に放り投げたのだった。

 最終的に、その家の主人が大きな騒ぎは何事なのかを見るために、現れた。おさんは私の首を掴み、主人に私を晒した。彼女は、私が野良猫であること、そして台所に入ることを止めないこと、を説明した。その主人は私を暫くの間眺めながら、彼の鼻の下にある黒い毛に触れていた。そうして、彼は言った。

 

「彼を居させておけ。」

 

それで、去って行った。おさんは悔しそうだったが、台所内に私を放り投げた。そのようにして、私は住む場所を得たのである。

 

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