エンジョイ・シンプル・イングリッシュ 和訳

NHKのラジオ番組 enjoy simple english「エンジョイシンプルイングリッシュ」を和訳しています。

「Narrow Road to the Far North - Episode 1 - Departure」(2021 年 9 月)

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 日、月、そして年というものは旅人である。それらは永遠の旅の中を、向かって来て、去る。人も同じである。水の上で彼らの日々を過ごす船頭、馬を引く馬子、にとって人生は旅であり、その旅が彼らの栖なのだ。旅の最中に命を落とす者は少なくない。風に吹かれ動く雲をもし見たなら、旅のことを考えることを止めることは、私には出来ない。

 

 昨年の秋、長旅ののち私はやっと隅田川ほとりの小さな我が家に帰り着いた。日々は新年までゆっくりと過ぎた。そうして雲を見ることをまた、始めた。この時、私は東北地方、北に向かいたいと思った。私は他のことは何も考えられなくなった。そのことに自分で気がつく前に、私は私の股引と笠を準備した。そして、自身の肉体を長旅に向け、整えた。私は松島の月について夢見た。それは人々が言うほどに美しい物なのだろうか?。私は私の家は人に譲り、旅立つことを決めた。私は若い夫婦がその家を買い、彼らは小さな女児を持つと聞いた。私の古い家屋は生き生きとしたものになるのかも知れない。私は発句、或いは俳句を彼らに向け、その家に遺した。

 

 新しい家族と共に

 私の古い家はきっと変るだろう

 可愛らしい雛人形が飾られて

 

 3月27日の夜明け、私は西の空に細い月を見た。そして、富士を遠くに見た。私は私の旅を始める準備が出来ていた。私は上野の方向を見た。私はいつかまたその桜の名所を見ることはあるのかしらと思った。私の生徒や友人たちが私を見送る為に集まった。我々は舟に乗り、隅田川を上る。我々はあまり多くは話さなかった。我々皆には、少しの寂しさがあった。我々は千住まで行った。川の流れに向かい漕ぐことは、私に熟考を齎した。川は春が行くのを止めようと、私が行くのを止めようと、試みているように思えた。私は川の中に魚を見た。それらの眼は涙で濡れているよう見えた、ちょうど我々のようにである。私はまた、俳句を書いた。

 

 春は行こうとしている

 鳥たちは彼らの悲しみの歌を啼き

 魚の目は泪に溢れている

 

 私たちは舟を降り、私はさようならと言った。今、私の長い旅が始まるのだ。私はこれから何を見て、何を経験するのだろうなと思った。その考えは私を不安にもさせたが、私は常々人生は夢のような物であると思っていた。この別離もまた、夢なのかも知れない。然し、私が歩き始めた際、私は涙を止めることができなかった。

 

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