Etsuko: ああああああ!。あれを見つけられない!。
Grandfather: エツコ、どうしてそんなに騒いでいるんだい?。僕におだやかな朝を過ごさせておくれよ。
Etsuko: おじいちゃん。わたしのジャケット、どこにあるか知らない?。あれをわたし、いつも春に着ているの。
Grandfather: ピンクのあれかい?。君のお母さんが昨日、それをクリーニングに出していたよ。
Etsuko: ああああ!。今日のわたしの予定、キャンセルしないとならないってことかと思うなあ。
Grandfather: デートに行く予定だったかい?。
Etsuko: デート、ってわけじゃあないんだけれど。大学の先輩が、一緒に映画を見に行こうって誘ってくれたの。
Grandfather: そうかい。おまえは本当に断りたいのかい?。
Etsuko: 私、どうすればいいかな?。わたし、春のジャケットないの!。
Grandfather: 違うものを身につければいい。もし上着が必要なら、君に僕のものを貸すよ。
Etsuko: ありがとう、おじいちゃん。でも、ノーサンキューだよ。
Grandfather: 僕は確信するけれど、先輩は君に会うのを待っているよ。
Etsuko: それは大丈夫だよ。その映画は夜の7時まで始まらないし。今メッセージを送れば、先輩はおうちでを出ないで済むよ。
Grandfather: ふむむ。新しいテクノロジーはほんとうに便利だなあ。しかし、僕は君の世代の人たちは何かを失っているとおもうなあ。
Etsuko: どう言う意味?。
Grandfather: 僕が君ぐらいの歳の時には急に変わった予定がある際、それを伝える術を持たなかった。
Etsuko: じゃあ、みんなはどうしてたの?。
Grandfather: なにもしない。我々は、何も出来なかったんだ。
Etsuko: その相手はどうしてたの?。
Grandfather: ただ、待って、待つだけだ。
Etsuko: ほんとう?。
Grandfather: 僕は2、3時間待ったし、時にはそれ以上長く待ったよ。そして待っている間は、「今日じゃ無かったかなあ、僕は日付を間違えたかな。」なんて考える。そうして長い時間待って最終的には、伝言板にメッセージを残して、帰ったんだよ。
Etsuko: 伝言板ってなに?。
Grandfather: それは黒板だね。どこの駅にでも、改札口のすぐ傍にそれは在ったんだよ。
僕が「午後 3:00 カフェエンジョイ にて待つ。シゲル」
と、書く。
そのカフェに女の子が来た時には彼女は言う。
「ほんとうにごめんなさいね。急な用事があって。でも私できる限り早く来たのよ。」
そうして僕が言う。
「全然大丈夫だよ。気にしないで。」
「君がここに来ないんじゃあないかと思った。」
「君は知っているだろう。僕がどんなに長くても気にせず、君のことをいつでも待つだろうことを。」
ロマンチック、だろう?。映画みたいだ。
Etsuko: おじいちゃん、四時間も誰かを待っていたの?。しんじられない!。
Grandfather: それが愛情っていうものだろう。
Etsuko: 愛情?。
Grandfather: その相手に対してもつ愛、だよ、エツコ。僕は、必要なだけ待つことができるよ。
Etsuko: あああ…。わたし、そんなには先輩のこと好きだとは思ってないな…。
Grandfather: そうだろうね。しかし、君のお気に入りの上着が見つからないというだけでは急なキャンセルはしなかった。
Etsuko: そっか、一理あるね。
Grandfather: よし。じゃあ僕の上着を着て、その男性と映画を見に行きなさい。
Etsuko: 「そうするよ」とは言うけれど、おじいちゃんのジャケットには「いらない」って言うわ。ところで、おじいちゃん、おばあちゃんのことも待ったの?。
Grandfather: 勿論だとも。僕は彼女を6時間待ったよ。