
朝食の前に、ドゥバンヌ氏はベルモンにネリー嬢を紹介した。ネリー嬢は緊張しているように見えた。
「私は忘れていました!。彼が逮捕される前に、貴女はアルセーヌ・ルパンに蒸気船で出会っている。それで貴女は彼の顔を知っている。そういうわけで貴女はベルモンさんを見て驚いているんですね。彼はとてもルパンに似ているように見え、ませんか?。」
ネリー嬢は返答しなかった。朝食が給仕されドゥバンヌ氏の来賓たちはコーヒーを飲みにテラスへ移動した。ネリー嬢は昨夜のルパンの約束を忘れてはいなかった。
「全てが明日の 3 時までには元どおりになることをお約束します。」
3 時までにはあと 20 分だった。ネリー嬢は 1 分ごとに時刻を確認した。 3 時まであと 10 分!。5 分!。時計が 3 時を打刻すると正に、2 台の馬車が現れた。それらは昨晩盗難された家具類と芸術品でいっぱいだった。
ネリー嬢はベルモンが彼女に歩いて来るのを見た。
「私は私の約束を守りましたよ。」
ネリー嬢は何も言わなかった。
「蒸気船で我々が過ごした幸せな時間を、貴女は覚えてはいませんか?。昨夜のことを忘れてもらうことは叶いますか?。」
ネリー嬢は目を上げ彼の指にあるルビーの指輪を指差した。それはドゥバンヌ氏から彼が盗んだ指輪だった。
「君は正しい。何も変えられない。アルセーヌ・ルパンはアルセーヌ・ルパンであり続けるだろう。許してくれ。」
ネリー嬢はルパンの傍を歩き過ぎ、城の中に消えた。
「私はシャーロック・ホームズが到着する前に去るべきだな。」
そう、ルパンは思った。
ルパンは一番近い鉄道の駅へ向かう近道を抜けるために野原を歩いていた。そこで、彼は反対方向に向かい歩いている人物に出会った。それは 50 くらいの年齢の男だった。彼は背が高く、外国人のように見えた。そして杖を持っていた。その男はルパンに話しかけた。
「失礼します。城へはこの道ですか?。」
「ええ、そうです。みなさん貴方のことをお待ちですよ。」
「おお?。」
「私の友人、ドゥバンヌ氏は貴方が来る予定なのだと、私たちに昨晩話してくれました。私は貴方、シャーロック・ホームズを出迎える第一の人物になれて大変嬉しく思います。私よりも貴方を崇拝する人物は居りませんよ。」
ルパンはすぐに彼の言葉の選び方を後悔した。ホームズは彼を頭から足先までとてもじっくりと見た。ルパンは思った。
「彼は私のことを見透かし、私がルパンだと知るに違いない。」
ちょうどその時、憲兵の馬が傍を通り抜けようとしていた。
ルパンは思った。
「彼は憲兵に声をかけ、私を逮捕しようとするだろうか?。」
しかし、ホームズは何も言わなかった。最後の憲兵が通り過ぎるまでしばらく時間がかかり、通り過ぎた時、二人の男たちはお互いの目をじっと見た。それは興味深い光景だった。二人の、信じられないほど優れた男たちの初対面はとても不思議で、とても力に満ちたものだった。
英国男性がまず初めに話した。
「どうもありがとう。」
「どういたしまして。」
ルパンは応えた。
そうして、彼らは違う方向へ向かった。ルパンは駅へ、そしてホームズは城へ、と。