エンジョイ・シンプル・イングリッシュ 和訳

NHKのラジオ番組 enjoy simple english「エンジョイシンプルイングリッシュ」を和訳しています。

「Sangetsuki Episode Four ~Finale~」(2020 年 11 月 放送)

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 虎である李徴はこう言った。

 

「私は先程、どうしてこのようなことが自分に起こったか分からない、と言った。しかし思い当たることは在る。私は偉大な詩家に成りたかった。しかし私は師を持つことや自分の作品に対しての意見を、他に同じ夢を見る仲間に得る事をしなかった。また、普通の人々と暮らすことに幸せを感じる事もできなかった。自分が十分な才能に恵まれていないのでは無いかという事を恐れていたので、自分の作品をそうして改善しようと出来なかった。同時に、自分は非凡ではあるという事を半ば信じていた。それ故、人々の中で普通に暮らすことに幸せを感じる事が出来なかった。私の中には、意気地の無い自尊心と尊大な羞恥心との二つがある。私は聞いた事がある。私たちはそれぞれが猛獣使いである、と。我々は自分たちの中に猛獣を飼い慣らしており、その猛獣は本当の自分である、と。

 私の猛獣が虎である。それは私を堕落させ、私に家族や友人を傷つける事をさせた。虎は私の内面だったのだ。しかし今では、内面と外面は同じである。私は最早人間としては生きられない。もし偉大な詩を書くができたとしても、最早人々にそれを伝える方法は無い。日々、私の心は虎に近づいていく。」

 

 悲しい角笛の音が樹々の間から聞こえた。それは夜の終わりを告げる物だった。

 李徴は言った。

 

「もう時間だ。しかしもう一つだけ頼みがある。私の家族のことだ。地元に戻った際には李徴は死んだと告げて貰えないだろうか?。決して今日の事は伝えないでいてくれ。たくさんのお願いをしている事は分かっている。しかしもし彼らが飢えや寒さに死ぬ事がないように、世話を戴けたら私は嬉しい。」

 

 そうして大きく哭き始める声が聞こえた。袁傪は言った。

 

「勿論だ。約束する。」

 

 李徴は言った。

 

「私はまず始めに自分の詩歌のことでは無く、自分の家族のことを頼むべきだった。自分の家族よりも詩歌について、より気にかけているようだから虎になるのだ。」

 

 李徴は続けた。

 

「友人よ。此処にはもう来ないでくれ。君と理解できないかもしれないし、君を襲ってしまう。そうだ、君がこの路の先に在る丘に到着した時、こちらを一度振り返ってくれ。」

 

「どうしてだ?」

 

「私は自分がどういう状況なのか君に見せる。この自分が如何に醜いか見せたいのだ。そうすれば、君は再び私に会おうとは思わないだろうから。」

 

 袁傪は泣きながら一行と共に去った。丘に到着し、彼らは高い草のあたりを振り返った。彼らは虎が路に跳ね出るのを見た。虎は淡い光の月を見て、数度咆哮した。そうして、草の中に飛び戻り、二度と現れなかった。

 

 

終わり。

 

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