Husband: むむむむ!。熱いお風呂の後のビールはほんとうに爽快だなあ。
Wife: あなた。私きょう、タロウの担任の先生とお話ししてきたの。
Husband: その面談は、どうだったんだい?。
Wife: 私、とても驚いてしまって、少しの間何も話せなかったわ。
Husband: タロウの成績がそんなに悪いのかい?。
Wife: 違うの。彼の成績の話じゃないのよ。私たちはタロウの将来についてお話ししてきたの。
Husband: そのことについて話すことなど何もないじゃないか。彼は大学入試の勉強をしているところだ。
Wife: そうなの。でも通常の大学への勉強じゃないのよ。
Husband: どういう意味だい?。
Wife: 彼は美大への進学を望んでいるのよ。あなた、タロウが彫刻に興味があるって知ってた?。
Husband: いや…。全く知らなかった。
Wife: 有名な彫刻作品でいいから名前を挙げることがあなた、できる?。
Husband: 勿論だとも!。うむ…。ミロのヴィーナス…。それに…。
Wife: そのほかには?。
Husband: うむ…。有名なお寺の、金剛力士像?。
Wife: いいわ。じゃあ、それらの彫刻作品を制作した芸術家たちのことを、あなた知ってる?。
Husband: いや、知らない。
Wife: 私も、知らないの。でもタロウはわかるの。私たちが全く知らない分野でのキャリアを私たちの息子が望むというのよ、信じられる?。
Husband: 信じられない。
Wife: 私、どうして彼がそこに行き着いたのか、知りたいなと思う。あなたの家族か或いはどなたかあなたのお知り合いに、アートについて本当に才能のある芸術家は居る?。
Husband: 居ないということを君は知っているだろう。僕の父親は読書を愛していたが彼は芸術の才が在ったわけではないし。ああ!。今思い出したけれど、父はタロウを美術館によく連れて行っていたな。二人は特に高村光太郎の展示が好きだったよ。
Wife: 高村光太郎は詩人よ。芸術家ではないわ!。
Husband: 本当かい?。知らなかったな。
Wife: 誰もが彼のことを学校で習うでしょう。確かめてみましょう。彼をインターネットで調べてみているわ、それでこう書いてある…。彼は詩を書き、彫刻を創り絵画を描いた!。わあ!。
Husband: 僕にも見せて。これは、手?。
Wife: そうね。これは「手」と呼ばれる彼の有名な彫刻作品、と書いてあるわ。
Husband: それは手のように見え、それ以外の何物でもないね。
Wife: 待って、タロウはこの、手の彫刻を子供の頃に観て彫刻家になりたいと思ったのかな。
Husband: 僕にはわからないよ。君は彼に聞いてみる必要があるね。
Wife: ああ、私は彼の将来にわくわくするし、同時に少し悲しいな。
Husband: どうしてだい?。
Wife: 私は彼が彫刻に興味があることすら知らなかった。彼は私の子供なのに私は彼のことを十分知らないような気がするから。
Husband: たとえ僕らが美術館に一緒に行っていたとしても、この、手の彫刻がタロウにとってこれほど意味の在るものになるこということを僕が気が付くとは、僕はおもえないよ。
Wife: その通りね。
Husband: 僕は彼が、芸術家として十分な生計を立てられるかどうかが心配だよ。
Wife: それに美大は本当に学費が嵩むわよ。
Husband: ああ、だめだ!。そうしたら僕は車を売却することになるかもしれないな…。ふむむむ…。
Wife: ああ、考える人!。
Husband: うん、僕は今とても真剣に考えている。
Wife: 違うのよ。あなた、有名な彫刻、ロダンの考える人、のように見えるわ。
Husband: 君がなんの話をしているんだか、僕はわからない!。