ガニマールは我々の行く道を遮り言った。
「あなた方はお急ぎ、でしょうか?。」
「これは何ですか?。私はこの淑女と共に旅行中の者です。」
ガニマールは私を注意深く見た。その時、彼は私の目を見ながら言った。
「お前はアルセーヌ・ルパン、違うか?。」
「ははは、貴殿は可笑しなことを言う。違います。私はベルナルド・ダンドレジー。これが私の身分証です。」
「いいや、ベルナルド・ダンドレジー氏は 3 年前、マケドニアで死亡している。」
「それは何かの間違いに違いありません。私は実際ここに居ます。そして、電報を思い出してください。ルパンは R で始まる偽名を用いて、旅行しているのです。」
「それはお前の手口の一つだ。初めは皆を騙すことに成功したな。しかしこの場では、お前の運は尽きたよ。」
少しの間、私は何と言っていいのか分からなかった。ガニマールは私の右腕を強かに打った。
「あぐっっっ!。」
私の右腕の怪我は航海の間に回復しては居なかった。今や私に出来ることは無かった。私はネリー嬢を見つめ、我々の目が合った。彼女はあのカメラを見下ろした。そうして、彼女は悟った。
私は宝石類とロゼーヌの金銭をあのカメラの中に隠したのだ。私はガニマールが私を止めるのに備え念の為に、彼女にカメラを渡したのだ。人々が私を見ていた。しかし、私はそれには構わなかった。私はネリー嬢がどう行動するかのみを、気にしていた。彼女は全てをガニマールに話すだろうか?。彼にカメラを渡すのだろうか?。或いは彼女は未だ少しばかり私のことを気にかけていて、守ってくれるのだろうか?。果たして、ネリー嬢は私の脇を歩き過ぎた。私は何も言わず、深く頭を下げた。彼女が少しぎこちなく、カメラを海面に落とした際には彼女は、タラップを降りる途中だった。そうして彼女は人ごみの中に歩き去った。
「私が清廉潔白な男だったのなら…。」
* * *
これがアルセーヌ・ルパンが私に話してくれた彼の逮捕の物語である。彼はこのような話を多く話し、私は私たちの間に友情のようなものがあるように感じている。彼はどんな容貌だろうか、と?。ああ、私はルパンには 20 回会っているが、毎回、彼は違う風貌に見える。彼は私にこうも言った。
「私は私が何者なのだろうか、もはや分からない。鏡の自分自身も自分だと認識できない。」
彼はまた、こう私に言った。
「どういう理由で私が同じ見た目で居りましょう?。どう言う理由で私は同じ個性を持つのです?。もし誰も自信を持って "あれがアルセーヌ・ルパンだ" と言えなければ、良いに越したことはありません。私の仕事を見て "アルセーヌ・ルパンの仕業だ" と言ってほしい。」
私はみなさんに、ルパンが私に話してくれた物語、冒険、を聞かせようと思う。私と共に、みなさんが奇譚を楽しんでくれることを望む。