Narration: ジブラルタル海峡をその船が渡る時、一人の年老いたイタリアの農夫は海を見つめる少年を見た。少年の周りを、深い悲しみが囲っていた。
Farmer: 少年よ、君はひとりかい?。
Marco: そうです。
Farmer: ひとりで旅するには君は若すぎるように見える。幾つだい?。
Marco: 13 歳です、おじいさん。私の名前はマルコ。
Farmer: たったの 13 かい?。この船が向かう先は知っているのかい?。
Marco: ええ、知っています、おじいさん。その針路はアルゼンチンのブエノスアイレスです。
Farmer: そこに暮らしている君の親戚がいるのか?。
Marco: 私の母親がいます、おじいさん。
Farmer: なるほど。それが知れてよかったよ。しかし君はなぜひとりなんだ?。父親はどこにいるんだい?。
Marco: 父と私の兄はイタリアにいます。彼らは仕事をしないとならないため、来られません。私の家庭はお金が必要なため、母親がブエノスアイレスに働きに行ったのです。私の父親の従兄弟がその土地に暮らしていて、彼が私の母親に、裕福な家庭で働く場所を探す手助けをしてくれました。
Farmer: 君の母親は健気な女性だ、君もだ。
Marco: 有難うございます。ただ、私たちはお母さんがとても恋しいです。私たちの家は母がいないとぽっかり穴があいたようです。母はたくさんの金額を中に入れた手紙を 3 ヶ月おきに送ってくれていました。1 年ほど前、私たちは体調があまり良くないのだと書かれた短い手紙を受け取りました。そして、以来母からの便りはありません。
Farmer: それを聞いて、私は気の毒に思うよ。それで、君たちはどうしたんだい?。
Marco: 私の父親はアルゼンチンにあるイタリア大使館に、母さんを探す手助けをしてくれるよう、頼みました。しかし、彼らは母さんを探し出すことはできませんでした。
Farmer: ああ…。
Marco: 彼らは地方紙に人探し広告を載せたが、誰からも申し出はなかったと言いました。それで私は決めたのです。
Farmer: 決めた?。
Marco: 私はブエノスアイレスに行かせてくれと父親に頼みました。初めは父親はだめだと言いました。数ヶ月も一人で私が旅をするのは無理だと言いました。
Farmer: 君の父親がだめだというのは正しかったよ。成人でさえ、そんな長い旅行は考え直すよ。
Marco: でも、私は毎日父親にお願いしました。父親がとうとう分かったと言いました。親切にも父親の友人がこの船の切符を私に与えてくれました。そうして、父親は従兄弟の住所を私に教えてくれました。私は大丈夫だと思います。母親を見つけることができると思っています。
Farmer: 君はなんて健気な少年だろう。
Narration: マルコの身の上を聞いて、その老農夫の目には涙が在りました。
Farmer: 神が君を護るだろう。いつでも、勇敢でありなさい。君はお母さんを、探し出すだろう。
Marco: 有難うございます。私は、見つけます!。
Narration: その船は白い波の間を前進し続けた。荒れる日もあったが良い日もあった。しかしいつも、空と海が混ざり合っていた。今日も昨日も明日も、同じ日々のように感じた。イタリアを発ち 27 日目、その船はブエノスアイレスに到着した。それは美しい 5 月の朝だった。マルコは希望に満ち、彼の母親に会うことを待ちきれないでいた。
Marco: 母さん!。僕はすぐ母さんに会いにいくよ!。