アルセーヌ・ルパンの公判は続いた。数人の証人が彼らの証言を話したが、確信的な道理を持つものではなかった。そうして、証人尋問はガニマール警部の順番となった。
ガニマール警部はどのようにルパンをヨーロッパからアメリアまで追跡しどのように彼を逮捕したかどうかを話した。傍聴人たちはその冒険譚を注意深く聴いた。しかしながら、ガニマール警部はしだいに落ち着かない様子になるように見えた。裁判官は話した。
「どうしました、ガニマール警部?。気分がすぐれないように見えますが。」
「いえ、ただ少し…。裁判官、囚人を間近で見ても宜しいですか?。」
ガニマール警部は囚人に歩み寄り、じっくり、長い間彼を見つめた。彼はそうして低い声で言った。
「この男はアルセーヌ・ルパンではありません。」
大きな沈黙が部屋を覆った。裁判官は言った。
「どのような意味ですか?。」
「この人物は他の誰かです。この人物はルパンと入れ替わったに違い在りません。」
「どのようにそんなことが出来ましょう?。もし入れ替わっていたとして、この人物は誰です?。」
法廷内全ての人々が驚き、一斉に騒ぎ出した。サンテ刑務所の刑務官たちがその囚人を確かめるために呼ばれた。
刑務所長は言った。
「この囚人は、二ヶ月前に我々が監視していた男とは、同一人物ではないと確信します。この男とルパンは異なった顔つきをしております。」
そうして看守は言った。
「私はこの男は第24号房の囚人だと考えます、ただし、彼が24号房に収監された二ヶ月前以来、彼はいつも壁を向いていたため、その確信は在りません。彼はまた、話もしませんでした。よって、私は彼の声も知りません。」
裁判官は囚人に優しく尋ねた。
「あなたは、誰ですか?。」
「デジレ・ボードリュでございます。私は二ヶ月前にお巡りさんに逮捕されたんです。お巡りさんたちは次の日には外に出してくれました。でも、そのとき二人の看守さんが私を囚人馬車に入れて刑務所に連れて行ったんです。私は一人で部屋に入れられました。私は食べるための食事も、寝るための場所もあって、それは快適でした。」
「私はこれを信じることができない。」
傍聴人たちからの笑い声と歓声の中、公判は中止になった。警察が記録を当たると、二ヶ月前に警官によりデジレ・ボードリュが警察に逮捕された記録が実際に在った。彼は同日釈放され、その時と同じくしてルパンが囚人護送馬車から脱走していた。ルパンは言っていた。
「私は出廷するつもりはない。」
ルパン、怪盗紳士、は彼の言葉を現実のものにした。
デジレ・ボードリュを刑務所に捕らえておく理由はなく、彼は釈放されるところだった。しかし、ガニマール警部は考えを持っていた。ボードリュはルパンに通じているに違いないと警部は考えていた。そしてボードリュが釈放された際、ボードリュを警部たちは追跡するつもりだった。
一月のある霧の深い朝、デジレ・ボードリュは刑務所を歩き出た。まず彼は、何をしたいか何も考えていないように見えていた。そうして彼はセーヌ川を渡り、乗合馬車の待合室に向かった。ガニマール警部と彼の二人の部下は外で待ち構えていたが、ボードリュはさっぱり現れなかった。ガニマール警部はその部屋に駆け込んだ。
「彼がここに居ない!。」