エンジョイ・シンプル・イングリッシュ 和訳

NHKのラジオ番組 enjoy simple english「エンジョイシンプルイングリッシュ」を和訳しています。

「Lemon Episode Three」(2020 年 12 月 放送)

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 ある日、私はその果物屋で買い物をした。それは私らしい事では無かった。思いがけず、その店に檸檬が売られて居た。檸檬は特別に珍しいものでは無い。その店はその他の果物屋と同じようなものだったので、それ以前には檸檬に気がつく事が無かった。あなたの知っての通り、私は檸檬が本当に好きだ。檸檬の純粋な色が好きだ。檸檬は、チューブから出したレモンイエローの絵具で作られて居る様に見える。そして形もまた、好きだ。端を切り落とした紡錘の様に見える。私は一つだけ檸檬を購入した。そしてそれから何処へどの様にしたか覚えて居ないのだけれど、とにかく歩いた。私は長い時間歩いた。私の心を押し下げる黒い気持ちは、私が私の手に檸檬を握った後には軽く成って居た。だから、私は心底幸福な散歩を街でした。暗い感情は、私と大変長い間共に在り続けた。しかしそれはこの一つの檸檬の由で、私の元から去った。心は不思議な物だ。

 冷たい檸檬はとても心地よく感じた。私の肺はいい状態では無い、それで私の身体はいつも熱を帯びて居た。私は友人達に私の手がどれだけ熱いかを示す為に、握手をしたものだった。そして、私の手はいつも一番熱かった。だからそういうわけで、檸檬の冷たい感覚が私の身体に通ったのかも知れない。それは心地よかった。

 私は鼻の元に何度も檸檬を取り、匂いを嗅いだ。匂いから、その檸檬の産地であるカリフォルニアはどの様な場所なのかを想像した。過去に学んだことのある漢文の一文が在る。それは「鼻を撲つ」というものだ。この言葉が私の心に浮かんだ。暫くの間、私は深い呼吸で私の肺の中を空気で埋めることをして居なかった。しかし、檸檬の風味の在る空気の、深い呼吸を取った際私は私の身体と顔に、暖かな血液が通るのを感じた。どういうわけか、積極的な活力が私の内に起き上がるのを感じた。

 それは私には不可思議なことだ。私は何故、檸檬を触ったり、嗅いだり、観たりすることがこんなにしっくり正しく感じられたのか、判らない。しかしそれは、私が長い間探して居た物の様に感じられた。それが、当時のことなのだ。

 私は軽やかな足取りと少しの誇らしさを持ち、歩いた。私は着飾った詩人が街を歩き回る事を想像した。私は汚れたタオルや私のコートに檸檬をかざした。私は檸檬の色のことを考えた。その時気が付いた、「それは重さなのである」と。檸檬の重さは私が探して居たものである、と思った。そしてこうも思った、この重さはこの世界の、全ての良い物や美しいものと同じものなのであると。これらは馬鹿げた考えであったが、どうでも良い。私は幸福だった。

 私はもう少し歩いた。そこで私は丸善の前に立って居た。普段なら私はそこを立ち去って居た。しかし、その日は「今日は中に入ろう」と思った。そして、その様にした。 

 

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