エンジョイ・シンプル・イングリッシュ 和訳

NHKのラジオ番組 enjoy simple english「エンジョイシンプルイングリッシュ」を和訳しています。

「Rashomon Episode One」(2021 年 2 月 放送)

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 或る日の夕方、男が羅生門の元で雨の止むのを待っていた。大きな広い門の下には、男以外の者は誰も居ない。傍には、大きな赤い柱にとまる蟋蟀がいた。羅生門朱雀大路と呼ばれる重要な道の上に在った。であるから、雨の止むのを待つ他の幾らかの人々が居ても良さそうである。しかし、そこには男のみが居た。

 これには理由が存在する。2、3年前、京都には地震、突風、火事、多くの人々に対する飢餓、などその他の災害があった。そうして、市内はとても静かな、また悲しい場所に成った。古い記録によると、人々は仏像や宗教的な仏具を崩し、そして赤や金の色で装飾されたまま、木材の束として売り捌いた。人々はそれを焚き木として使用した。

 市内は良い形で運営されていなかったので、羅生門の修理をするものは居なかった。そういうわけで、羅生門は野晒しの場所に成った。狐や狸達がその門に棲み始めた。そして賊、も。そうなって、人々は門に死体を運び込みそれらを破棄し始めた。太陽が沈んだ時には、この門には誰も近づこうと思わなかった。

 人々の代わりに沢山の鴉達が、門に集まってきた。彼らは昼間の間、門の両側面にある装飾のそばを円を描いて飛び、大声で鳴いていた。夕暮れ、門の上の空が赤く成る頃、それはさらにはっきりと見えた。鴉達は死体を喰う為に門に来るのである。しかし、その日は遅かったので、一羽の鴉もそこには見られなかった。ただし、石の階段の上に鴉の白い糞が、水玉模様状に在った。男は青い着物を身につけ、階段の一番上の段に座った。彼は雨が降り落ちるのを見る間、なにも考えなかった。彼は彼の右頬の大きな吹き出物に触れる続けるのみであった。

 この物語は

 

「男が雨の止むのを待っていた。」

 

 という言い方で始まったが、しかし男は雨の止んだ後の考えを持って居た訳では無い。以前であれば、彼の主君の元へ帰っていたであろう。しかし、彼は4、5日前に彼の職を解雇されたのである。京都は良い時代では無かった。であるから、彼は雨の止むのを待っていた、と言うよりも、望みの無い男が雨を凌いでいた、と言う方が近い。また、雨空が、平安時代のこの男の心情に影響を与えていたかもしれない。午後4時あとから雨は降り始めている、そしてそれは、長い間止むようには見えない。

 彼が次の日にできることは本当に何も無かった。しかしそれでも彼は考えることを続けていた。彼は考えなしの考えを考えていた。朱雀大路に落ちる雨音を聞くことなしに、聞いている間に。

 

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