エンジョイ・シンプル・イングリッシュ 和訳

NHKのラジオ番組 enjoy simple english「エンジョイシンプルイングリッシュ」を和訳しています。

「Rashomon Episode Two」(2021 年 2 月 放送)

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 雨が羅生門を覆っていた。雨は遠くから来て、近づくにつれて雨音を集めてくる。そして闇は空を低く低くもたらす。羅生門の屋根が、重い暗い雲を支えているように見えた。

 男は、何もそれについてすることができない何かについて、何かをしなければならなかった。彼にはこれ以上に無駄に費やす時間は無かった。もし彼が良心的なやり方を選択したとするならば、彼は土塀の傍、あるいは路上で飢えのために死んでいただろう。そののち、人が彼の死体をこの門に運び、それを犬ころのように廃棄するだろう。一方もし彼が良心的なやり方を選ばなかったとするならば…。男が、彼の唯一の選択に気が付くために長い時間が費やされた。彼は生きるために賊になるより他なかった。しかし彼はそれを行う勇気を持た無かった。

 男は大きな嚔をした。そうして、ゆっくり立ち上がった。京都の夕闇は本当に寒く成った。夜の闇が迫るにつれ、門の柱を通り抜けて風が吹いた。赤い柱の蟋蟀は、居なくなっていた。

 男は門の周りを見回した。彼は快適に眠れる場所を探していたーーー雨や風が入らない、また人々が彼を目にすることができないだろう何処か、を。その時、男は門の上階に続く赤い梯子を見つけた。上階には人がいるかもしれない、がしかし死人だろう。そうして男は草鞋を履く彼の足を、梯子の一番下の踏み場の上に置いた。彼は彼の刀を失わないように気を付けていた。

 

 それからしばらくのち、男は猫のように梯子に縮こまっていた。彼は梯子の半ばに止まり、彼の上の階を見つめていた。そこには小さな火が在った。それは男の、吹き出物の在る右頬と短い髭を照らしていた。男は羅生門の内部には死体だけが在るものと考えていた。しかし、梯子を登ると、松明を持った誰かをそこに彼は見た。灯りは動いていた。雨夜に羅生門に松明を持つ人物は邪悪なものに違いない。

 男は家守のよう、とても静かに梯子を登り上がった。そして、彼は彼の身体をできる限り平にし、ゆっくりと内部を見た。

 人が言っていた通りの様子であった。門の内部には多くの死体が辺りに横たわっている。しかし、灯りが弱いので、どのくらいの数の死体が在るかどうかは分からなかった。死体は悪い匂いがした。男はすぐに彼の鼻を覆った。しかし次の瞬間、彼の手は鼻を覆うという事を忘れてしまっていた。強い感情が彼の身体に、匂いについてのことを忘れ去らせたのだ。

 

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