エンジョイ・シンプル・イングリッシュ 和訳

NHKのラジオ番組 enjoy simple english「エンジョイシンプルイングリッシュ」を和訳しています。

2019年05月17日、11月15日放送 「Sangetsuki Episode Two」

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 李徴と袁傪は官僚になるための最も難しい試験に、同じ年に合格した。李徴は多くの友人を持たなかったが袁傪はその中の一人であり、一番親しい友人であった。柔らかく泣く声が高い草の方から聞こえた。袁傪は返答を待った。暫くのち、低い声で応えがあった。

 

「そうだ。私は隴西の李徴。」

 

 袁傪は虎に対する恐怖は忘れ、長い期間失っていた友に会うために馬を降りた。袁傪は李徴に、どうして草の陰から出てこないのかと尋ねた。李徴は答えた。

 

「私は最早人間ではない。もし君が私を見たら、君は震え上がり私を嫌悪するだろう。しかし暫しの間は私の醜い容姿を忘れて、過去したように会話をしてくれないだろうか?。友人として?。」

 

 後日、袁傪はこの異様な状況になぜ疑問を持たなかったのか、不思議に思った。しかしその時には彼は彼の友人の頼みを受け入れた。彼は尋ねた。

 

「君に何が起こったのだ?。」

 

 李徴は言う。

 

「約一年前、私は深夜に目を覚まし、誰かが私の名を呼ぶのを聞いた。そして私はそれを見るために外へ出た。私は闇の中に声を聞き、声の方向へ走り出した。どのくらいの距離走ったか、今ではわからない。しかし気がつくと、私は山の中を走っていた。走りながらそして、私の手は地面に着いていた。どうしてなのかはわからない。しかし、私の身体はとても漲り、岩から岩へとたやすく跳躍することができた。夜の空が明るくなり、私は自分の姿を河に見た。私は虎だった。私は何が起こったのか判らない。私はその時自分で死ぬことについて考えた。しかしその考えのすぐ後、私の前を兎が走り過ぎるのを見た。自分の中の人間的な感情がその瞬間消滅し、再び人間的な感情をを取り戻した時、兎の毛が私の周りに落ちて在り、私の口は兎の血で満たされていた。

 これが私の、虎としての初めての体験だ。私は今まで何度も似たような経験をしてきた。自分のして来たそれらのことは誇りには思えない。しかし毎日、人間的な感情をこうして数時間だけ得ることができる。その時には私は人間の言葉を以前のように使うことができる。しかしその期間は短く、短くなっている。私は以前は自分が何故虎に成ってしまったのか不思議に思っていた。しかし近頃はどうして人間だったのだろうかと考える。私は怖い。あと少しして、私の人間的な感情は私の動物的のそれの中に消えてしまうと思う。まるで古い城が、地面の砂の中に時間と共に消えていくように。私は自分の過去を忘れ虎として生きていくのだろうと確信している。もし私を路で見た時には恐らく、君を何の後悔もなく食べてしまうだろう。誰も、私の気持ちを理解することは出来ない。誰も。」

 

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