エンジョイ・シンプル・イングリッシュ 和訳

NHKのラジオ番組 enjoy simple english「エンジョイシンプルイングリッシュ」を和訳しています。

2019年05月24日、11月22日放送 「Sangetsuki Episode Three」

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 虎に変身する人間、李徴。彼は彼の友人、袁傪に話した。

 

「人間では無くなる前に、君に頼みたいことがある。」

 

 高い草の陰からの声を聞くために、袁傪は息を飲んだ。

 

「これらすべてのことが私の身に起こる前、私は高名な詩家に成りたかった。その夢を達成することは出来なかった。私の書いた数百編の詩は誰にも知られることは無い。今ではそれを記述した帳面がどこにあるかも分からない。しかし、いくつかの詩は覚えており、今でも詠むことができる。私のために、それらを書き下し世に残してくれないだろうか?。私は自身が偉大な詩人では無いことはわかる。しかし、私は財産と自分の心とをすべて詩歌のために使ったのだ。私は私の詩のいくつかでも後世に残さないと死ぬことが出来ない。」

 

 袁傪は従者に、草の中の声を書き下す事を命じた。短い詩と長い詩、約30の詩が在った。詩には格調が在り、独創的でもあった。この詩人は極めて非凡である、と言っても良いであろう。 袁傪は感動し、しかしこうも思った。

 

「李徴は偉大な詩家に成れただろう。しかし、これを本当に偉大な詩とするには何かが足りない。」

 

 李徴は詠うのを終えた。そうして、彼は自嘲するように言った。

 

「これを言うのは私にとっては辛いことだ。この姿であってさえも私は未だ、私の詩集が教養のある者の机の上に在ることを夢に見る。洞窟の中に横たわりながら、だ。嗤ってもいい。詩家には成れなかったが虎には成った哀れな男を嗤え。分かっている。今の私の気持ちを詩に詠んでみようか。未だ人間の私がこの虎に残っている事を示すために。」

 

詩は、このように続いた:

 

「病が私の心を取り去った

 私はすでに人間では無い

 終わりのない苦悩が意気消沈させて

 逃げることは出来無い

 今では爪と牙とともにある私に

 打ち倒すことの出来ない人間はいない

 過去には我々はとても優秀だった

 しかし今の私を見ろ

 草の元に虎が隠れている

 そうして君を見る

 高官として馬の上に乗っている

 私は月をみるだけだ

 山と谷に輝く月を

 この夕暮れに

 詩は口から出ることは無い

 在るのは動物の咆哮だけだ」

 

 月明かりは冷たかった。そして地面は朝の露に濡れていた。木々の間を吹く冷たい風が、皆に太陽が登ろうとしている事を伝えた。皆はこの不可思議な状況を忘れ、この哀れな詩人に対して同情を覚えていた。

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