人魚の娘は歳を重ね育った。彼女は彼女の異形な体を恥じており、あまり外へは出なかった。しかしながら、彼女のことを見たことのある者はすべて、彼女の美麗さに大変驚くのであった。彼女をただ見たいがために、老夫婦の店に蝋燭を買いに来る客も在るのであった。
ある日、老夫はいつものよう蝋燭を作っていた。老夫のそばへ娘が来て、言った。
「よいことを思いつきました。お爺さんの作った蝋燭に、私が絵を描きましょうか?。もしそうしたなら、皆さんが益々多くの蝋燭を買ってくれるのではと思います。」
「それはいい。絵を描いてみてごらん。」
人魚の娘は絵を描き始めた。誰も彼女には絵を教授されたことは無かったにもかかわらず、彼女は魚、貝殻や海藻の素敵な絵を、白い蝋燭の上に赤い絵具で描いた。老夫は大層驚いた。その絵には、何かしら不可思議な美しさが篭っていた。彼は思った。
「絵が素晴らしいのは当然のことだ。彼女は人魚なのだから。」
その、赤い絵の描かれた蝋燭はすぐに人気のものとなった。子供から大人までが皆、それを買いに来た。蝋燭屋はとても忙しくなった。
新しい噂が話し始められたのはこの頃だった。人々は話し始めた。
「その蝋燭は嵐の中、船を守ってくれる。水難に遭うことはない。」
赤い絵の蝋燭は速やかに売れた。老夫は朝から晩まで蝋燭を忙しく作った。そして人魚の娘は彼の傍に座り、手が痛くてでも絵を描いた。
人魚の娘の眼は、老夫婦の思いやりを考えると涙で満たされた。彼女は良い心を持っていた。
「私は人間ではないのに、お爺さんとお婆さんは私を育ててくれたことは大変にありがたいことだ。感謝をしきれない。」
遠くの村の人々でさえも、その蝋燭のことを耳にした。周辺の漁師と水夫が、その特別な蝋燭を買いに来た。彼らは山を登り、神社で祈り、その蝋燭に火を灯し、それが短くなるまで待つ。そうして、彼らはその蝋燭を持ち帰るのであった。
そのため、その山の頂上にある神社は昼夜問わずいつも蝋燭で輝いていた。それは夜には特別に美しい、海からの景色であった。
神社はその、力強い御利益のある神様のため、急に有名になった。神社の神様のことはよく知られるようになったが、絵を描いている娘のことを考える者は居なかった。であるから、娘は働きすぎだとしても、気にかける者は居なかった。
人魚の娘は疲れていた。彼女は月が明るく輝くときに、窓から顔をだして泣くのであった。彼女は北方の青い海が恋しいのであった。
ある日、強欲な商人が南方から来た。彼は何か面白いものを探し、それを持ち帰った際に金儲けをするために、北の地に来たのであった。