南方からの強欲な商人は、人魚の美しい娘についての話を聞いた。彼は老夫婦の家にある日に向い、言った。
「あなた方の人魚、私に売ってくださいませんか?。わたしは多くの金額をお支払いします。」
「彼女を、売る?。そんな愚かなことを言いなさんな。」
「彼女は神様からの授かりもの。私たちは彼女を売ったりすることはありません。もしそんなことをしたら、神様は私たちに鉢を与えるでしょう。」
老夫婦は拒んだ。しかしその商人は何度もやって来た。
「あなた方、人魚は不吉なものであると、ご存知ありませんか?。もし彼女を置いておくのなら何か悪い事が起こると、わたしは確信します。」
老夫婦はその商人の言う、不吉にまつわる言い分を信じ始めた。それに彼らは大金を手にするのであった。彼らの欲の深さが勝った。そうして老夫婦は商人に、彼らの人魚を売ることを約束したのであった。その商人は喜んで言った。
「わたしは直ぐに人魚を迎えに来ます。」
人魚の娘はこれを聞いて驚いた。その内気で優しい娘は、怖くなった。彼女は家から遠く離れた、とても暑い土地へは行きたくはなかった。 彼女は泣いて泣いて、老夫婦に言った。
「私はもっと一所懸命に働きます。私を売らないで。私のしらない場所へ行かせないで。」
老夫婦の心は石のよう冷たかった。彼らは人魚の娘には、全く耳を貸す事は無かった。娘は彼女の部屋に入り、扉を閉じた。彼女は一日中部屋の中におり、蝋燭に絵を描くのであった。
ある月の明るい夜、人魚の娘は波の音を聴きながら一人、座っていた。彼女は彼女の行末を思うと怖くて悲しかった。そのとき、波間から彼女を呼ぶなにかが聞こえたよう、彼女は思った。彼女は窓の方へ行き外を見たが、そこには、月明かりが明るく表面を輝かす青い、青い海だけが在った。
人魚の娘は座り込み、絵を再び描くのであった。まさにその時、表が騒がしかった。その商人が来たのである。彼は荷車とともに現れた。荷車には、鉄格子の嵌った四角い箱がのって在った。商人は以前は虎や獅子、豹をこの箱に入れ、運んだのであった。商人は人魚も同じだろうと考えた。彼女は海の獣なのであったから。
人魚の娘はこの事を知らなかった。もし知っていたなら、彼女はどんなにか驚いたことだろうか。彼女は絵を描き続けていた。その時、老夫婦が部屋に入って来た。
「時間だよ。行きなさい。」
人魚の娘には絵を仕上げる時間が無かったので蝋燭は、赤一色に塗られた。彼女は二三本の蝋燭を彼女の悲しみとして、残して行ったのであった。
その夜は穏やかで静かな夜だった。老夫婦は戸を締め、眠りについた。その時、真夜中頃、誰かがその戸を叩くのであった。老夫婦はそれを聞き、それは誰なのかと訝しく思った。
「どなた?。」