男は彼女の答えに失望した。その答えは平凡なものであったからだ。そうして、嫌悪と侮蔑の感情が彼の心の中に再び戻った。老婆は彼の中の心の変化を感じたに違いない。彼女は女性の死体に在った髪を掴んだまま、蟇のように話した。
「私は、死体から髪を得る事が悪事だとは理解しています。しかしこれらの者はとにかく、そのような扱いを受けるに値するのです。この女は蛇を細切れにし、それを揚げた魚として皇太子の近衛兵に売っていました。彼女が病で倒れなければ、未だ蛇を売り続けたでしょう。そして、知ってましたか?。近衛兵はその、揚げた魚、の味を好きだった。彼らはいつもそれを彼女から購入していた。でも私は、彼女が悪いことをしていたとは思わない。もし、彼女が蛇を売らなかったら、彼女は飢で死んでいたでしょう。だから、私は私のしていることが悪いことだとは思わない。もし髪を得ることが無かったら、私は飢えで死にます。この死んだ女も、怒りを覚える事は無いでしょう。」
男は左手は刀の先に保ったまま、刀を納めた。彼は彼の右頬の吹出物を触りながら、静かに聞いていた。
彼は聞いたのち、勇気を得はじめた。この勇気は以前の男には無かったものである。そしてそれは、老婆を捉えたときの勇気とは全く反対の勇気の感情であった。そして今男は、飢えで死ぬか賊に成るかと、どちらかを選択する悩みは持た無かった。飢えで死ぬという考えは彼の心からは遠く押しやられていた。
「お前がそう云うのなら。」
男はその吹出物から手を離し、低い声で話した。彼は前に歩み、老婆の首周りを掴んだ。彼は言った。
「それならば、お前の衣服を私にはぎ取られてもお前は恨むまいな。私はそうしなければ、飢で死ぬ。」
そう言うと、彼は老婆の衣服を脱がした。老婆は男の脚を掴もうとしたがしかし、彼女は蹴り飛ばされた。
男は梯子まで5歩ばかりだけのところで在る。彼は老婆の衣服を彼の腕の元へ掴んだまま、素早く梯子と夜の闇の中に降りた。
老婆はまるで死んだよう床に横たわっていた。その時、彼女はゆっくりと、衣服を身につけないまま起き上がった。彼女は死体に囲まれていた。
異音が老婆の喉から聞こえていた。彼女は梯子まで這い、床に在る穴に頭を落とした。彼女の白髪は、彼女が見降すと共に乱れて吊るされた。そこには闇夜以外無かった。男が何処に行ったのかを知るものはいない。